12日、13日に陸の孤島、横須賀美術館で、訪れる方々と交流してまいりました。
遠くは京都、浜松から、何年かぶりで再会した方々、
新しい出会い、思いがけない出会いに、心から感謝している次第です。

会場で様々なご質問を受けました。
皆さん熱心に耳を傾けて下さいました。
本当にありがとうございました!
その場では、言葉が足りないこともありましたので、
このブログで改めて言葉を補って記録しておきたいと思います。

Q1「作品の完成は、いつどう決めますか?」

A 「完成は、私がするのではなく、見る人が最後に完成させる、という考え方なので、
あまり私がはっきりとこう見て欲しいということはしないようにしています。
見る人が見たいものを自分なりに膨らませて、自由に見て欲しいという作品なのです。」

Q2「最初にこういうのを描こうと決めてから描きますか?作品名は最初にありますか?」

A「長野に行く前は、筆やカッターを単純に進めて、
だんだん見えてくるものを頼りに即興で制作していました。
長野で制作するようになって、身の回りの具体的な自然にも抽象性が潜んでいることに気が付き、
具象と抽象を橋渡しするような作風になって来ました。
抽象を突き詰めて行く時代では、もはやないと思います。
今は多様性に対応して行く時代と私は捉えています。
作品名は、最初は何もなくて、制作している途中に頭に浮かんできます確かに、
こういう作品を描きたいというアイデアや言葉はありますが、
すぐには答えになるような作品は出てこなくて、
何年か経ってから出てくることもあります。」

Q3「こういう作品は、わからないんです。
何を描いているのんですか?何を伝えたいと思っているんですか?」

A「昔は人々は美人の絵を見てみたいとか、
美しい風景を見てみたいというような明確なニーズがありましたので、
それに答える作品を描けば皆が喜んでくれましたが、
今は人々は、多様で自由な考えを持つことが出来るようになって、
見たいという絵もそれぞれ異なります。
それで、私も最初は何を描いたら良いかわからない時期がありました。
でもある時に、『正直に、そのままはっきりとわからない絵』を描くのが、
一番自分の気持ちをそのまま表現することになると気づいたのです。
そうしたら、はっきりしなくても、見る人によっていろいろ違った見方をしてくれて、
私自身もそういう見方があるのかと、話を伺うのが楽しみでした。
それで、結果的に、人によって自由に見て楽しんでもらう作品となって行きました。
ですから、思い思いに自由に見てもらって構わない、そういう絵なのです。」

Q4「一つの作品を完成させるのに、どのくらいの時間がかかりますか?」

A「いつも作品は数点を同時並行して制作して行くので、正確な時間はわかりません。
スクラッチやハッチングをしていた時は、とても時間がかかっていて、
多分3ヶ月から半年、ものによっては3年くらいかけて制作していました。
油彩に変えてからは、もう少し早く完成出来るかと思ったのですが、
油彩は乾かす時間が必要で、ひと塗りして次の色をかぶせたいと思ったら、
1週間程間を置かなければなりません。
また、油絵具は水彩のアクリル絵具にくらべると粘りがあるので、
筆を動かすのにとても力が必要です。
ですから、結局どちらが楽とか早く出来るというものでもないことがわかって来ました。」

Q5「横向きにすると空の景色になる作品がありますが、なぜ普通に展示しないのですか?」

A「タイトルをご覧頂けると分かるように、
「無方の空」という作品は、空を無方向にすることで抽象表現にしようとした作品です。
実は自然の具体的な姿かたちにも、抽象性が潜んでいることを伝えたかったのです。
具象的なものもミクロの世界にまで到達すると、抽象的な形が見えて来ることがありますし、
もうひとつの工夫として方向性を変えることで、
具象とは思えないような世界が見えて来ることがあります。
もともと抽象表現は、カンディンスキーという画家が、
自分の具象の作品を逆さまに立てかけてあったのを、
外出先から帰って来て見てみると、
逆さまで具体的なテーマが失われている方が断然作品がよく見えた、
ということから発見されたそうです。」

Q6「どういう人が作品を買うんですか?
見たところすごく大きな作品も個人の所蔵になっていますが、
そういう人は大きなお屋敷に住んでいるんですか?」

A「コレクターさんって、初老のお金持ちの男性というイメージがありますか?
実はここに出品して下さっている人たちは確かに男の人ばかりですが、
40代の方から、年齢は様々です。ここに出品されてはいませんが、
実は女性のコレクターさんの方が多いくらいかも知れません。
大きな作品をお持ちの方が特に大きなお屋敷に住んでいるというわけではありません。
今は住宅事情が良くなっていて、
10畳以上のリビングダイニングがあれば、大きな壁がひとつはありますし、
新しい物件ではたとえ断捨離して家具を持たなくても、
充分な備え付けの収納スペースがある時代なので、
逆に壁をどう使ったら良いかと思って頂けるような時代になって来ました。」

Q7「どういうきっかけで、作品を買われるんですか?」

A「ブログやFBで私に興味を持って頂いてから、
画廊や美術館での発表を見に来て下さった人もいれば、その逆の場合もあります。
全部が全部同じ共通項があるわけではありませんが、
海外に良く出掛けて生活の中にアートがあるシーンを見慣れている人、
これまでに車や洋服などにお金をかけて来て、
それがとても虚しいことだと気がついた人、
作家で作品の制作方法に興味を持つ人、
私の活動を長年見て来て応援したいと思って下さる人などです。」

Q8「世の中には、確かに高い技術にお金を払っても良い、という意識はありますね。
例えば職人が手作業でつくるルイヴィトンのスーツケースとか、
はじめて太陽電池で動くようになった最初の腕時計とか。
確かに美術作品は高い技術のものもあると思うけれど、
なかなかそういうことは勉強しないとわからないことですね。
川田さんの作品の場合、たしかにこれまでのスクラッチやハッチングは、
技術的な意味で価値があったけれど、
それでも油彩画の方も買う人がいるのはなぜだと思いますか?」

A「これまでは、技術的な特異性で皆さんにアピールするような制作でした。
でもそれを突き進めて行くと、技術力の高さを目標にしていくことになりそうでした。
確かに細かくキレイな線描ができるようになって、
写実的な力も出してみるということもして来ました。
それは「ゼロから1をつくる」というようなありかたで、
ゼロから手探りで自分なりの手法を改良して来たから意欲も高まって、
自分でもドキドキしながら制作出来たのだと思います。
それがある程度出来てしまうと、後は『1から2や3をただ量産しつくり続ける』
という様式化がはじまりますが、それはアートの領分ではなくなってしまうのです。

『ゼロから1をつくったけれど、またゼロを探し挑戦する』それが今回の油彩作品です。
私自身、今年になって40年ぶりに油絵具を使ったので、
とても手探りでドキドキしながら制作出来ました。
ここからまた改良を進めて、自分の世界の多面性を見せたいと思っています。
つまり、技術力ではなく、アートとしても価値付けをして頂けたということではないでしょうか?」

Q9「展示の流れがとても自然で、川田作品の変化の過程が一瞥出来て、とても楽しめます。
この空間があまりに良すぎて、次の発表に苦労することになりませんか?」

A「確かに、この空間は12メートルの天井高と、
北向きの1日中変化の少ない外光が差し込むという、
他には類例のない特別な空間が出来ていますので、
これと同じような展示はもう2度とないと思って、
限りある今を存分に楽しむしかありません。

しかし、アートと言うのは不思議なもので、
場所や展示の組み合わせ方で、様々な顔を見せてくれます。
とりわけ絵画とは、計り知れない可能性に対応出来るように、
長い長い歴史の中で改良を重ねて育まれて来たものです。
絵画が軽く薄くどこへでも簡単に動かせるという可動性の性質は、
アートが地球上を自由に旅し、
様々な人と喜びを分かち合えるためにあります。

そういう意味で、もっと川田作品の可能性が広がるように、
私自身が見る人と共に、自分の可能性を広げて行く弛まぬ努力をして行く必要性を、
ひしひしと感じているところです。
私自身が変われば、作品も、制作環境も、
発表の機会も全部変わって行くもの
だからです。」

これらのご質問を受けて、はじめて自分の考えに気付くことが多々ありました。
これらの経験が、また次回の制作の糧となります。
様々なご質問をして下さった皆様に心から感謝しております。

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美術館の外でも、夏いっぱいの景色を楽しんで頂けます。

追伸:ご支援のご報告

8月3日 毎月送って下さるH様からまたご寄付1万円のご送金を頂きました。
頂いたご寄付で12日、13日の横須賀美術館滞在の帰りに横浜の画材店で、
名村大成堂油彩筆HF4号を4本とドローイング・スケッチブックを購入することが出来ました。
次回個展に向けて発表する小品制作に本日から使わせて頂いております。
ありがとうございました。

8月8日 ブログ上で発表しました小品の内「空の詩」16万円をお求め頂きました。
T様いつも作品を集めて下さり、心から感謝しております。
送って頂いたご支援は、今月末に支払うアトリエ維持費と
長野と横須賀美術館往復旅費に使わせて頂きます。

目下、次回個展DM発送郵便代52円切手x300枚=15600円を必要としております。
引き続き作品ご購入や、ご寄付などのご支援をよろしくお願い申し上げます。

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