お陰様で、横須賀美術館での展覧会、
「川田祐子展 千年の翠」(~9月25日)も残すところ後1ヶ月弱となりました。

このブログのアクセス数もとても増えて来ています。
先日ブログの問い合わせフォームから、ご質問も頂きました。
横須賀まで展覧会を見に来て下さった、埼玉県のMさん、
ご質問ありがとうございます!

同じようなご質問を度々頂きますのでこの場をお借りして、
皆さんと情報を共有することに致します。

ご質問
はじめまして。
川田先生の作品を拝見して、私も作品作りをしてみたいと思い、試してみたのですがうまくいきませんでした。高校の美術の時間にスクラッチボードを使ってスクラッチの作品を作ったことがあるのですが、アクリル絵の具を使っての制作は初めてです。
アクリル画用のキャンバスにホルベイン制のジェッソを二度塗りして何色かのアクリルガッシュを重ね塗りして乾いたところをスクラッチしたのですが、削れる部分と削れない部分があったり、画面に亀裂が入ったりと散々でした。
もしよろしければ、下地や画面の作り方について詳しく教えていただけないでしょうか。
どうぞよろしくお願いいたします。

回答

【重ね塗りの回数】
ジェッソは、2度塗りでは全然足りません。
私の場合は、20回塗ります。
1度塗って次に塗るまで、約50分近く乾かす必要もあるので、
1日に7回を限度として、計3日かけてジェッソ塗りをしていました。
塗るときには、なるべく限界ギリギリ
(20%水を足すのが限度と言われています)
水で薄めて、薄く刷毛目が出ないように平滑に塗ります。
なぜ一度に厚く塗らないかというと、乾燥を早めるためと、
層を重ねることで堅牢になること、平滑さを調節できるからです。

【刷毛】
平滑に塗るためには、実は刷毛が重要です。
毛が硬いと筋目が出てしまうので、
なるべく柔らかく細かい刷毛を見つける必要があります。
色々私も試しましたが、
結局日本の日本で売られている刷毛はどれもダメでした。
刷毛は、海外へ買い付けに行って、
足りなくなってからはお取り寄せをしていました。
毛が抜けるような粗悪品は特にダメです。
人工のナイロン製もダメでした
(ジェッソや絵の具に馴染みすぎて、根詰まりしやすい)。

【磨き】
ジェッソを20回ほど塗って、2〜3日よく乾いてから、
耐水性のサンドペーパーで、隅々まで、
キャンバス地の布目が見えなくなるまで、磨き上げます。
塗り込んだジェッソの大半が消耗されますので、
ジェッソが流れ落ちますから、
キャンバスは作業台に載せて作業します。
キャンバスのサイズによりますが、
100号くらいだと、2日はかけます。
また、天気の良い昼間の光が窓から入っている時間帯に、
作業することが重要です。
キャンバスの布目が消えているかを、
よく確認しなければならないからです。
この下地がしっかり平滑にできないうちに絵の具を塗ってしまったら、
結局スクラッチの綺麗な線が出ないどころか、
思うように作業が進まなくなってしまうので、ここが一番重要です。

【色の組み合わせ】
下地が良くできていれば、後はアクリルガッシュは、
思いのままに平滑に塗れるはずです。
一色あたり3〜4回は塗り重ねます。
(この時にも、絵の具を乾かす時間は約50分が目安です。)
そうしないと、色がしっかり見えないままで、
他の色に打ち消されてしまいます。
また色塗りの順番や組み合わせも重要です。
補色同士は、互いの色を引き立てますが同系色を重ねても、
あまりハッキリ区別がつきません。
黄色い透明色を緑の上に載せても、黄緑が見えてくるだけです。
ビリジアンという透明な緑をいくら重ね塗っても鮮やかな緑にはなりにくいです。
ですからその下にエメラルドグリーンのような、
不透明な緑を忍ばせておかなければなりません。
色の組み合わせの研究は、とても重要なポイントです。
平滑になっていれば、カッターナイフでほとんど力を入れずに、
シュルシュルと細い糸くずのような絵の具カスをおとしながら、
とても快調にスクラッチ作業がはかどります。

重要なポイントは、

1.時間と手間をかける(スクラッチするまでに最低1週間はかかります)
2.道具を研究(刷毛、作業台、サンドペーパーの種類など)
3.色の研究(色の組み合わせ)
4.環境を整える(刷毛の手入れ、チリやホコリのない場所、明るい自然光の入る部屋)
5.経済力(ジェッソ、絵の具、刷毛やカッターの刃など消耗品を常にストックしておく)
6.体力と根気(私の場合は、根気に自信があって、始めた作業でしたが、磨きの作業は、腰にとても負担があります。最近レントゲンでわかったのですが、この長年の作業で5番目腰椎と4番目腰椎との間の椎間板がすっかり摩滅して無くなっていました。医師によると、場合によっては腰痛で歩けなくなる一歩手前ということでした。くれぐれも気をつけて作業をされて下さい。)

以上の色々な条件が整って、
尚スクラッチでなければならないという強い情熱が必要です。
最初から上手くできなくても、情熱さえあれば必ず技術が向上し、
コツを習得し、もっと良いアイデアが閃いていくことでしょう。

もしこの説明だけでは不十分、というのでしたら、また細かくご質問下さい。

追伸
8月23日、豊島区Y様から心あたたまる横須賀展ご感想が届きました。残暑お見舞いの京都のお菓子を美味しく頂きながら、拝読致しました。ありがとうございました!

9月4日に横須賀美術館でアーティスト・トーク(11:00-12:00 申し込み不要)とワークショップ(13:30−15:30 要申し込み お問い合わせtel:046-845-1211)を行います。皆様のご参加をお待ちしております。

yokosuka22
横須賀美術館「川田祐子展 千年の翠」展示風景
向かって左:甘露 2016 右:玲瓏の庭 2016 ともに油彩・キャンバス