これが昨日も紹介したドライポイント・リトグラフ作品の拡大図です。4版多色刷りで、線と線の隙間にまた別の色の線を食い込ませるようにして、重層的な空間を平面の紙の上につくりたい、その一心で版を制作した記憶があります。摺師は、私の後輩の豊丸さんとその相方の河原さんにお願いし、3人のこだわりが集結して出来上がりました。私が版をつくると、どのような色を乗せたいかを口頭で説明しました。インクは高級油性インクで、日本でもこれだけの色をストック出来る工房はないと聞かされました。舶来のインク缶そのものが、魅力的で、その色、光沢を観るだけで、制作意欲が触発されました。
例えば「どんな青にしますか?」と聞かれて、「横須賀の海は湘南のような爽やかな潮風という感じではなくて、結構生活臭さがあるから、そういう豊穣な青さがいいんだけど...青と言っても緑とか土の色なんかも感じられた方がいいから、もっと重い色で、他の色を引立たせる暗さをつくって下さい....そんなこと言ってもわかりますか?」という感じです。それで、「何となくわかるかもしれない」ふむふむと、私の思ってもみないような色も選ばれ、ヘラでガラス板の上に少しずつ盛られて行き、それを職人の手さばきでムラなく練られて色がつくられました。
色は無限につくれるのです。そしてちょっとしたニュアンスを醸し出します。隣にどんな色が置かれるかによっても、その色の発色が変化します。その色を殺すも活かすも、さじ加減ひとつ。色で語り口調が変わるのです。
そのさじ加減とは何かといえば、その人がどれだけ自分の世界や自分を深く知ろうと関わっているか、その一点に尽きるように、私は思っています。同じ世界を見ていても、通り一遍の浅い付き合い方は、確かに面倒な混乱が無い代わりに、見落としている事も多いように感じます。そこからは、深い味わいは引き出せません。面倒なことがいろいろあっても、それらを避ける事なくそのまま受け止める事で、制作ができるのかもしれない、そう思うようにしています。
1998年当時は、リトグラフをつくっても、それをどうするというわけでもなく、ただ作ったのでした。これらの作品は未発表のままお蔵入りをしていました、むしろ私にとっては、これを機にスクラッチ技法で生の作品を制作するきっかけが掴めたことが重要で、発表するとかお金にするという努力を怠ってしまいました(しっかりしなければ)。
それよりも版にドライポイントをしていて、その版そのもの自体が美しいとまず思いました。そしてそれに色を感じさせられるようにしたい、摺師に手伝ってもらうのではなく、自分で色を重ねたいと思いました。そして私なりに工夫して出来上がったのが、アクリルガッシュによるスクラッチ技法なのです。
またスクラッチの制作風景を動画に編集して、皆さんにご紹介出来るよう、撮影を重ねていますので、もうしばらくお待ち下さい。静止画を、予告編として貼付けておきます。
題名:現相ー葉隠
技法:ドライポイント・リトグラフ
紙:フランス製高級版画紙アルシュ
インク:フランス製高級油性インク
限定枚数:20
サイズ:紙73x102cm 画63x90cm
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