水戸でワークショップをしてまいりました。

その内容を、ブログ上でご紹介致します。

「画家川田祐子ワークショップ 
風景と対話し、景色をつくる ー写真コラージュで自分史を語ろうー」

対象:60歳以上
参加費:1000円
持ち物:風景写真5枚程度(会場でコピーして使用)

11月3日(木)13:30~16:30 
場所:ローズヴィラ水戸
参加者:9名

11月4日(金)13:30~16:30 
場所:南部老人福祉センターふれしあ
参加者:10名

11月6日(土)13:30~16:30 
場所:水戸芸術館現代美術ギャラリー内ワークショップ室
参加者:13名

主催:財団法人水戸市芸術振興財団、社会福祉法人水戸市社会福祉協議会
協力:バニーコルアート株式会社、財団法人安寿苑介護付有料老人ホーム ローズヴィラ水戸
企画:中野 詩、森山純子(水戸芸術館現代美術センター教育プログラムコーディネーター)

■ワークショップ流れ
1.これまでの自分史を語る:写真を見ながら
2.これからの自分史をつくる:コラージュしながら
3.川田制作:P100号キャンバス作品 (11月8日~12月19日)
4.展示 12月21日(火)~来年1月10日(月・祝)水戸芸術館エントランスホール
5.鑑賞 鑑賞会:来年1月8日(土)13:30~14:30 同会場

ワークショップ当日は、2までの簡単な内容ですが、全体は3ヶ月に及ぶ長いスパンでのワークショップとなっています。

■3つのテーマ
1.自分史を語りながら過去を振り返り、自分を再確認。
2.具体的な風景から自然の美しさを抽出し、これからの自分のあり方をつくるような気持ちで、抽象的な景色をつくる。
3.「外の自然」と共通する「内なる自然」に気づき、自然な自己表現、無理のない作業を工夫。

■3つのキーワード
1.「風景」と「景色」:言葉を使い分けることで、具象と抽象の違いを考えてもらいました。
2.「外の自然」と「内なる自然」:写真から外の自然の美しさを学び、コラージュ作業をしながら、内なる自然が判断する、自分なりの美意識があることに気づいてもらいました。
3.「自我」と「自己」:参加者間でのコミュニケーションを通じて、自分だけが満足する孤立した自我表現ではなく、周りの人と共に楽しむめる「自己」の表現について意識してもらいました。

■当日内容
【1】13:00~受付開始 来た人から写真を複写(スタッフ2名:複写作業、川田:写真の多い人の対応)

【2】13:30~13:40 ごあいさつ・ワークショップ説明

【3】13:40~13:55 川田作品紹介(プロジェクター使用)
*画像15点 内容:川田作品の5つの特徴/制作活動の3つの方向性について

【4】13:55~14:50 これまでの自分史を語る:写真を見ながら(1人4分)。
*写真の中の風景だけに着目し、その写真の具体的な経験を語ります。
問1:そこはどこですか?
問2:その風景の中で、自分だけのかけがえのない思い出はありましたか?
問3:その自然の風景の何が素晴らしかったですか?

【5】15:00~15:45 これからの自分史をつくる:コラージュしながら(各自作業)。
*コラージュ作業・制作のコツについて説明
*過去の思い出と決別し、人物を切り離して(気になる人には保管袋を用意)、風景の中の、美しい部分を抽出して、配置、ブラックボードに貼付けて行きます。具体的な風景から、次第に抽象的な思い思いの景色につくっていきます。

【6】15:45~16:15 1人1人の作品を紹介しながら簡単な感想を語り合う

*今日の内容のおさらい
1.風景と対話し、自己をみつけることは出来ましたか?
2.自我ではなく、自己表現出来ましたか?
3.自然の美しさをみつけることが出来ましたか?
4.内なる自然に従うことは出来ましたか?
5.抽象絵画に親しみを持つことは出来ましたか?

【7】16:15~16:30 まとめ挨拶 アンケート記入 終了

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■これまでのワークショップ
ワークショップの活動は、2002-3年 静岡県立美術館、2005年 横浜市民ギャラリー、2007年 相模原市民ギャラリーでの企画を経て、4回目になります。

第1回目『メモリアル・コラージュ あなたの思い出を下さい』、第2回目『メモリアル・コラージュ 思い出を語り、形にしよう』、第3回目『浮かび上がる歴史~スクラッチ絵画~』そして、今回は『風景と対話し、景色をつくる ー写真コラージュで自分史を語ろうー』というタイトルになりました。

毎回、各企画者(担当学芸員さん)と数ヶ月間、メール等を利用して打ち合わせし、内容を練って行きます。今回も今年5月の碑文谷でのイベント、トークショウで、初めて担当学芸員の中野さんとお会いして、そこから水戸へ伺ったり、メールをやりとりして次第に形になって行きました。

タイトルからもわかるように、共通していつも、写真をベースにして、思い出を語りながら作業をしている内に、次第に私の絵画制作のしくみ(単調な作業の集積、時間の蓄積、見る人がみつけるそれぞれの景色)を実体験する、という内容です。

各会場ごとの設備や、条件、ワークショップの目的などに応じて、柔軟に内容を変えて来ました。静岡では、計10回のワークショップを半年にかけて実施して、総計123名が参加。ワークショップでつくった作品を最後に私が共同作品として完成させ、それを参加者が美術館展覧会場で鑑賞するという画期的な試みをし、朝日新聞でも記事に紹介されました。この時の作品は、20x20cmのパネル、123枚はバラバラで、展示の壁に合わせて流動的に展示出来るようにしました。

初めから、かなり大掛かりなワークショップでした。私自身の制作もかなり大変だった記憶があります(のど元過ぎると、すっかり忘れてしまうのですが...)。

この時大変だった点は、1.写真の複製の手間 2.死にまつわる悲しい思い出をどのように受け止めるか 3.共同制作という重責、の3点に絞ることができます。これらの難問を少しずつ改善しながら歩んで来ました。

■本ワークショップの特徴
今回はそれらの問題をかなりクリアしたと実感しています。

1.写真の複製は、スキャナーとプリンター機が合体した機材を芸術館側で用意して頂いたので、フォトプリントの出来が紙焼きと変わらず、安価でインスタント、かつ良質なコラージュが実現しました。

2.死にまつわる悲しい思い出については、写真の人物ではなく、その後ろの風景の話しに焦点を合わせることで、悲しみを回避することにしました。私自身の制作の上でも、写真とはいえ、人様の顔の上にハッチングやスクラッチをすることは、とても抵抗があるものです。しかし、一方で語りの場面の盛り上がりが足りなくなる、という実感もありました。以前は、涙しながら語り、それがコラージュ作業に集中することで、昇華されるという場面を何度も見て来たため、今回は平穏無事とはいえ、強い印象的な場面はなくなりました。

3.共同制作という重責について。実はいろいろな意味で作品が残ることは、私自身負担もあります。このことを改善したのが横浜市民ギャラリーと相模原市民ギャラリーでのワークショップです。作家との共同制作にせずに、ワークショップ作品の展示終了後は、作品を各自持って帰ってもらい、私には画像が残る、というものでした。しかし、参加者さん達にも、私にとっても何かその場限りでもの足りなさがないわけではありません。
しかしながら静岡での作品は、いまだに私が作品を保管しているわけで。今後どのように保管維持して行くべきかは、未解決のままです。
今回の水戸での作品はP100号の作品が残ります。参加者の作品が一つのキャンバス上に一体化します。その景色を展示、鑑賞会でどのように皆さんで見て楽しみ、作品がその後どうなるのか...ワークショップはその場限りとはいえ、実は私が一生をかけて背負って行く、そういう責任の上で行うものだと覚悟はしています。

4.参加対象を60歳以上に限定した点も今回の特徴です。参加者の皆さんは、お元気ですが、高齢の方には、スタッフが6名程、作業の補助として見守りました。細やかな対応が出来たように思います(ちょっと過保護くらいに。。。)
「先生や他の人には言えない話しを打ち明けます」こっそり、個人的にスタッフとお話しされていた人もいたようなので、それも良かったと思っています。

参加された方から「何で60歳以上なんですか?」という質問が出ました。
「これまで、年齢制限無しで行って来ましたが、写真を多く持ち、沢山の経験談が出来る年齢がかなり高齢であることがわかって来ました。私自身、経験豊富な方の話しを伺いたいという趣旨もあります。」と答えました。
企画側にも、最初から、高年齢層を対象にしたいという申し出がありました。お互いに、その点で意見が一致して、私自身もとても楽しむことが出来ました。

5.毎回、心に残るお話しも伺うことが出来ました。

南極、北極に行かれた人、敦煌で駱駝に乗った人、アラスカ、ハワイ、韓国、国境を越えた交流や、自然や動物、変わった植物との触れ合いのお話しも聞けました。

日本の名所あちこち。三奇橋を全て訪れた話し。
筑波山、昇仙峡、蔵王の樹氷、滝、雪の庭、山歩き、フラワーガーデン。
自然と共に、そこには必ず忘れられない人との思い出が語られ、心和む場面もありました。

娘さんの難産に気持ちが焦る中、新幹線で移動中に車窓から富士山を見て感動したその1枚。

尾瀬で登山靴が壊れていて困っていると、グループの中に、たまたまもう一足靴を持っていた人がいて、助けられた話し。

幼い頃にご両親を亡くしたために、淋しくなると、偕楽園の梅の下に行って泣いていたという話し。

人の死の直後に、鈴なりの柿を見て、その生命力に圧倒された、その1枚。

水戸中の木を愛するあまり、緑のつく名字の人と結婚することになった話し。

水戸にまつわるお話しも伺え、私自身が感動して胸が一杯になる場面もありました。
この気持ちをこれからの制作に活かして行くことになります。

今日、キャンバス木枠が再送されて来ました。これからキャンバスを張りはじめるところです。
参加者の方々の作品を今度は和紙にプリントして、キャンバスに貼り込んで行きます。
その上からハッチングの線を重ねて、それぞれの境界線をなくして、一体化させ、
思い出がほんのり浮かび上がる景色をつくっていく構想です。

参加者さん達の作品の一部をご紹介します。写真のこういう楽しみ方を、皆さんも是非!

つづきはまた。

*追伸:水戸芸術館内ミュージアムショップ『コントレポワン』にて、セルフカバーアートの新作5点と、水戸ワークショップ記念特別作品1点、合計6点(各税込価格¥11,970-)と『川田祐子画集 一雨潤千山』(税込価格¥1,260ー)を販売中です。販売は来年1月10日までの限定販売です(*1月16日までに延長されました)是非この機会にお見逃しなく!ご案内まで。

水戸ワークショップ記念作品(36枚限定販売)