momat 0709
Photo:Ichiro Ohtani

上の画像は、私が2006年に制作した『A THOUSAND WINDS』の接写画像です。
この作品は東京国立近代美術館に所蔵されていて、昨年3月~5月開催の所蔵品展『マチエール(画肌)の魅力』で展示されました。その際に、CCDセンサー付きのデジタル一眼レフによって実験的に撮影された、その1枚です。

学芸員の都築さんから、CDに焼いたものを頂いていたのですが、展示公開早々にあの3.11の大震災が起き、計画停電のため、ほとんど非公開に終わってしまいました。見に行って、結局ご覧になれなかった方もいたかもしれません。

a thousand winds@@@

A THOUSAND WINDS 2006 162x194cm

私の作品は、どれもこのような線の集積で出来ています。ワークショップやギャラリートークでは、虫眼鏡や拡大鏡で覗いてもらうことがあり、見た方は結構驚かれます。このような画像が撮影出来る絵画は、まず他にありません。

この画像では、緑とブルーと黒と白(本当は薄い紫色)の極細面相筆の柔らかくたわむ線と、カッターでスクラッチした硬いシャープな細い線が見えています。実は拡大鏡でもっと拡大して見る事ができると、このスクラッチの線の中に黄色や赤や金等いろいろな色が縞模様になって見えて来ます。これはアクリル絵具を薄く何層も刷毛で平塗りしている、その絵具層がスクラッチの切り口から見えるからです。これら様々な色の線が折り重ねること、また補色や色の明暗など線の色同士の対比による目の錯覚で、平たい画面に立体感が生れ、空間が立ち上がって来るように感じるのです。ですから、糸が織りなしているようにも見えるかもしれません。織物と勘違いする人もいるぐらいですから。

このような現象を『錯視』と言って、1950~60年代に活躍したオプ・アートの作家たちが、盛んにこの現象を利用して幾何学的な縞模様や網状の表現の作品を残しました。しかし私の作品をオプ・アートと言う人はいません。作品の見た目が無機質な幾何学的な表現にはなっていないからです。私の表現は有機的であり、かつこのしくみは、ミクロの中に埋もれてしまっています。言わばお料理で言う「隠し味」というところでしょうか。

ですから、私の作品をちょっと見ただけでは、どのような方法で制作されているのかわかりません。ただ、感覚的に優れている人は、監視の目を盗んで、触ろうとします(本当は美術作品は触ってはいけません。念のため。)。また、キャンバスの縁を一生懸命に見て、どのくらい絵具が厚く塗ってあるか確かめようとする人も多いです。そのくらい、絵具が膨らんでいるように見えますが、実のところ、本当に真っ平らに均一に絵具が塗り重ねられているだけなのです。スクラッチの傷も、おそらくミクロの深さであって、まず下地やキャンバス布に到達することはありえません。ジェッソ地を薄く15回以上乾かしながら塗り重ねてあるので、とても固く堅牢です。

このように、下地作りから始まり、1本1本の線をカッターで引っ掻き、面相筆で描き加えて行く作画の作業には、とても時間がかかっています。2009年からつくり始めてまだ終わらない作品もある程です。1日約10時間、ただひたすらこの作業に徹します。その合間に息抜きにキャンバス木枠を組み立てたり、次のキャンバスの地塗りをしたり、このようにブログを書くようにしています。

先日アルバイトをしましたが、やはり、その時間に筆を持ったらもう少し作品が早く完成するんじゃないかと、そればかり考えていました。時間を取るかお金を取るか、それが問題です。ただ、今回思ったのは、あまり重いものを持つアルバイトはしないことにしました。釜飯を15個運んで片手で配りましたが、これが結構重くて、さすがに筆を持つ手が震え、描線が思うように引けません。

面相筆は2種類を常時用意しています。一つは韓国の筆職人の名人がオーダーメイドで作ってくれたコリンスキーという動物の毛の高級筆で、もう一つは丸善のインターロンという形状記憶を持つナイロン製の筆です。これらは、制作の過程で使い分けをして、なるべく消耗を抑えるよう自分なりに工夫しています。それでも2日持てばよく、3日もすると、かなり筆の毛足が半分無くなります。地塗りにジェッソを使うのですが、このジェッソは絵具を画面にしっかりと付着させるために、わざとざらつくようになっていて、そのざらつきに絵具が食い込んでくれて、しっかりと付着するのですが、これが筆の毛を摩耗させる原因になります。

絵具をつるつるの画面に塗るとどういうことになるかというと、はじいて均一に塗れなくなります。そのかわりに光沢のある画面になります。絵具の光沢とマットな表情というのは、ジェッソの磨き具合で私は調節します。ジェッソを磨くために私は耐水性のサンドペーパーを使います。ある程度の光沢は、作品を魅力的にしますが、これが行き過ぎると絵具の耐久性に関わって来ます。この手作業を長年積み重ね、さまざまな経験と工夫によって作品が完成して行きます。人は描かれたものが何であるかを見ようとしますが、抽象絵画は、むしろどのように描かれているか、その制作過程こそに意味がある場合が多く、私の作品もそのように関心を持ってもらうことで、作品を深く味わってもらうきっかけになるかと思います。

*「画家川田祐子 芸術支援寄付」プロジェクト収入の経過報告3*

期間:5月5日~5月8日

賛同寄付 1名様(東京都)3口 寄付金小計 30,000円

画集販売 1冊 1,260円

収入小計31,260円

収入総計 117,000円(内寄付総計42,000円)

支払い内容………………………………………………………………….
皆様の応援のお陰で、本日思い切って画材を買うことが出来ました。
そろそろ次のキャンバスの用意もしなくてはなりません。本当に励まされています。
ありがとうございます!

マルオカ・キャンバス上製・木枠 F100号 12,821円
(*上製木枠とは、縦横と木組みが桟になっているもので、この仕組みで、キャンバスの反りや踊りが防げます。価格がその分割高になりますが、耐久性を考えるとこれを外すわけにはいきません。)
筆 丸善インターロン 20本 5,040円
ホルベイン アクリラガッシュ ペールラベンダー 2本 824円
画材支払い小計 18,685円

茶封筒100枚パック 角2サイズ 998円
セロテープ10本 498円
事務用品支払い小計 1,496円

支払い合計 20,181円 
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今月末までに必要な金額 あと53,181円
目的達成まで あと3,703,181円