9日に、「金星探査機「あかつき」が金星を回る軌道に無事入った」
というニュースが目に飛び込んできました。
5年前に2010年5月に打ち上げられたものの、
その年の12月、軌道に入る前に、エンジンの噴射中に壊れ、計画は失敗、
本来の目的から外れて、ずっと太陽の周りを回っていたのだそうです。

しかし、残ったわずかなエネルギーと小型エンジンやソーラーパネルをうまく使って、
本来の軌道に戻せないだろうか。
女性研究者が一人で、毎日膨大な計算をコツコツして、
やっとこの日のタイミングを見つけた出して、今回の成功へと導いたのだそうです。

大袈裟かも知れませんが、そのニュースは決して対岸の出来事とは思えず、
自分自身のこれまでの歩みを重ねて、とても感慨深いものでした。

私の歩みも、2010年の12月に「軌道を外れ」何をやっても上手く行かない時期を経て、
その後、翌年の3月の大震災で大きく揺さぶられ、
2012年に1月末には長野に移転、
この5年間は、新しい軌道に乗るために、幾つもの試練を乗り越えて来ました。

そういう意味で、昨年1月のクインテット展、
今年7月の「道草」展、現在開催中の「揺光」展によって、
やっと本来あるべき軌道へと徐々に移行することが出来たと実感しています。

最近の私は、人生を一本の道にたとえることはなく、図式するならば、
中心の核に向かって、円心状の軌道を回りながら、
少しずつ軌道を次のより核に近い軌道の円心にシフトしていくように捉えています。

このシフトは、今から振り返ると、次の変化によって可能になったと思っています。

1.毎日毎日規則正しく制作するが、1日のほんのわずかな時間を使って、
以前よりも気を緩め、自然をよく観察することが出来るようになった。

2.従来出来ていた作品の質重視の制作から、
数やスピードに挑戦する制作に切り換えた。

3.自分を信じることは大切だが、何もかも自分で抱え込まない。
正直に自分の弱い点も出して、共同の力を信じる。

4.得意とすることや、出来ることを守り続けて行くのではなく、
常に不得意なこと、新しいことに挑戦する。

5.インプットとアウトプットを両方そのまま作品にすることができるようになった。

とりたてて、特別なことではないと思いますが、実際に習慣化していく上では、
柔軟さや勇気が必要でした。

最後の5番目のインプットとアウトプットとはどういうことかといいますと、
これまでは、完成されたものだけをアウトプットするばかりの制作だったのを、
インプットして行く制作もそのまま作品として見せるということです。

私にとっての絵画でのインプットとは、デッサンやドローイングなどの素描を通して、
自然の具体的な姿を観察することです。
自然から沢山の学びを得て、かつそれを作品として見せて行くことが出来る。
つくづく基本に立ち戻る重要性を実感しました。

一般には、デッサンは技術を磨くためのレッスンと捉えがちですが、
私は違った捉え方をしています。
デッサンによって、自分の癖や下手な部分を知り、
それを自分の作品の味として活用して行くことが重要なのではないか、と思うのです。

人が上手く出来ることは、大抵どの人も時間をかけて根気づよく修練を積めば、
同じように上手く行くもので、人によってそう大差はありません。
絵画に、珍しい技術、手に入りにくい高価な画材はあっても、
それほど高度な技術はないのです。
あったとしても、普通の人の目には、言わなければ、
それが大した技術や画材に思えないものばかりです。

むしろ、不得手なこと、上手く行かないこと、癖が直らないことに、
大きなチャンスがあると私は感じて来ました。

それが、その人でしか出来ないものになっていく可能性があるからです。
しかし、それはそういう形でせっかく現われて来ているのにも関わらず、
残念なことに、発見されないまま塗りつぶしや掃き捨てによって、
ほとんどが失われて行ってしまいます。

一生懸命上手なところを見せようとしてつくられた作品は、
「上手だと言って下さい」と言っているかのように見えます。
それは美術のほんの一側面でしかなくて、
上手下手にこだわって見ている人が興味を持つ作品になります。

自分の弱さや欠点も見せられる作品は、
きっと正直な人が見に来る作品に違いないのです。

今年は、インプットとしての花の作品が沢山生まれました。

そして具象的な花の作品から「揺光の花」という作品の抽象性へと昇華する過程を、
そのまま見せている今回の個展は、
私の今後の制作にとても重要な意味があると感じています。

kawada-kanekoart

実は、今回の個展のコンセプトを自分なりにまとめるにあたって、
『ロスコ 芸術家のリアリティー美術論集』という本に目を通しました。

本の紹介に、次のように書かれていました。
「現代抽象絵画を代表する作家マーク・ロスコ(1903-70)。
様々な色の矩形が浮かぶ独自の様式に至る以前、
ロスコ自ら綴った草稿を編んだのが本書である。
1940年代前半、自身の芸術が
いまだ確立しない苦しみの中にあったロスコは、
一時的に絵筆を置き、それに替えてペンを執った。
そこに残されたのは、画家としてではなく
オブザーバーとして造形芸術を語り、
現代と古代のあいだをわたりながら記された、
美術の〈リアリティ〉の系譜である。
数年後に再び画布に向かった時、
彼の作品は、現在ロスコの到達点として認められる
純粋な抽象画へと変化を遂げる。
挫折であると同時に、ロスコがロスコになる
転回点ともなった時代の貴重なテキスト――
死後永らく埋もれていた草稿が今、
60余年の時を経てその息子の手によって甦る。」

私が目を通しただけで熟読しなかったのは、
自分とは違うなという幾つかの点に気付いたからです。
私だったら、オブザーバーとしての仕事は残さないだろうということです。
昔の作品云々よりも、今この自分の制作が大切。
そして、私は、純粋な抽象画を目指しているわけではないということです。
ロスコがやろうとしても出来得ないことは何だろうか?とも考えました。
その答えが、抽象から具象へというベクトルの転換でした。

ロスコの作品を見て、静かな荘厳さは感じられても、
柔軟さや優しさが感じられないなと思っていたら、
事実、彼は他の人の作品と並べて陳列されることを大変嫌がって、
そのことで展示の機会を沢山逃した作家だったとのこと。
目指す所は、ここにはないと気がついたのでした。

むしろ私は、冷たい抽象と呼ばれる画家モンドリアンの
「菊」などの花の作品にとても興味があるのです。
あの温かみのある眼差しが、どのように冷たい抽象へと移行したのか、
シュタイナーへの傾倒等、
機会があったら調べてみたいと思っています。
モンドリアンの花の画集
モンドリアンの菊の作品を紹介しているブログ記事

「揺光」展に展示している「soul flower 」は、
モンドリアンへのリスペクト、オマージュとして描いた作品です。

soul flower 2015 oil on canvas 45.5x38.0cm ¥270,000-
soul flower
2015
oil on canvas
45.5×38.0cm
¥270,000-

抽象作品を信奉する人たちは、
抽象を具象よりも発展したものだと考えたがる傾向があります。
たしかにモンドリアンの時代はそういう時代でした。
それから半世紀以上が過ぎ、
生意気かも知れませんが、
私は、そういう考えはもう古いなと思う。
あるいは、それは閉じた世界だと感じています。
そこに閉じこもった作品は、飛躍に欠け、
作風を窮屈にさせていくだけではないでしょうか。

多様化の社会になって、美術に一本の道程など存在しません。
あるのは、見る人も作る人も、混沌とした多様な作品の群れの中で、
自由自在に自分の居場所を自分が選べ、作れる道無き道です。
少なくともそういう時代になって来ていて、
制作する側も、見る側も、次なる光を求めて、
心揺さぶられている時代と私は解釈しております。
そういう意味で、今回の個展は絵画の揺さぶりの一側面を、
作品と展示によって具体的に示すことが出来たのではないかと自負しています。

会期中に一旦長野に戻って、
自然に手が動いて制作してしまった最新作を持って、
17日に再び上京、最終日まで在廊を予定しております。

会場で是非お会いしましょう!お待ちしております。

川田 祐子 展 – 油彩画 揺光 –
2015年12月1日(火)ー 12月23日(水・祝)

12:30−19:00[土・日- 18:00]月曜休廊

道草の途上、風にゆらめく光の下、
心の片隅に忘れかけていた油絵具で、
これから何かになる、その一歩手前に、
可能性の広がりを見る制作が始まりました。

KANEKO ART TOKYO
101-0032千代田区岩本町2-6-12曙ビル1F
http://kanekoart.jp

追伸1:
お知らせがございます。
個展会期中に、下記展覧会の予定が決まりました。
このような大きなチャンスが舞い込んできましたのも、
一重にこれまでご支援、応援して下さった皆様方のお陰です。
本当に心から感謝しております。ありがとうございます!

2016年7月9日(土)〜9月24日(日)
川田祐子展
横須賀美術館

http://www.yokosuka-moa.jp
会期中ワークショップ開催予定

追伸2:
ブログ、Facebook、Twitterなどで、
今回の個展の情報や私をご紹介して下さったり、
ご感想を書いて下さった方々に、厚くお礼申し上げます。

今この瞬間の姿という奇跡

KANEKO ART TOKYO個展情報
*丸木美術館の学芸員岡村さんの感想コメントが掲載されました。

光と影の綴れ織り

井戸端のクオリティオブライフ

ホルベイン・アーチストナビ