美浜美術公募展は、もう23回も続いている、とても貴重な絵画公募展です。出品料や審査料がなく、また入選した場合は送料を企画側で負担して下さり、その上福井の美浜からはじまって、大阪府立現代美術センター、福井県立美術館と、3カ所での巡回展で作品が紹介されます。絵画を制作している人にとっては、とてもありがたい公募展です。

2008年、2009年、2010年の美浜美術展に応募するため、私はこれまで3枚の50号の作品を制作し応募しました。

2008年は福井県知事賞、2009年は準大賞を頂きました。
昨年は入選に留まりましたが、この3点は、私の仕事としてとても重要な作品になったと思います。

それぞれ「震生」2008年、「あめつちほしそら」2009年、「内なる自然」2010年です。
shinsei2008
《震生》
2008
アクリルガッシュ・キャンバス
91x117cm

「震生」は、神奈川県の秦野市と中井町にまたがる震生湖から触発されて描いたものです。
この湖は、1923年9月1日に関東大震災の際にできました。

「天災は忘れた頃にやってくる」という言葉を残した(とされる)物理学者寺田寅彦の随筆にも書かれていまして、当地には、寅彦が詠んだ「山さけて成しける池や水すまし」の句碑が建っています。

人は賢くなりますと、つい人間が自然を支配しているものと考えがちですが、自然は、人智をはるかに超えた力を持っています。

自然は一瞬の力で、土地を海に飲み込みますが、山や湖すらつくるのです。

破壊と創造の区別などありません。

画家もまた、破壊と創造を常に自分の内に持って制作していなくてはなりません。

一つの絵画を生むために、震えるような強い思いが必要なのです。そういう作品でした。

《あめつちほしそら》 2009
アクリルガッシュ・キャンバス
114X114cm

「あめつちほしそら」は、平安初期に成立した「いろはにほへと」と同じような、手習い歌です。発音の違うかな四十八字からなります。

「あめつちほしそら やまかはみねたにくもきりむろこけ ひといぬうへすゑゆわさるおふせよ えのえをなれいて(天地星空、山川峰谷、雲霧室苔、人犬上末、硫黄猿生ふせよ、榎の枝を馴れ居て」

この詞については、サイトで意味をさまざまに解読している人もいらっしゃいます。
専門的な分析はともかく、私の場合は、一振りの線の集積から、形を起こして即興的に絵が形成されて行きます。

一振りの1本の線には、何も意味はありません。
「あ」や「め」といった一つの音、言葉に、何の意味もシンボルもありませんが、その並べ方で、意味が浮かび上がって来ます。
そういう手習い歌の神秘性のようなものに、自分の作品の特徴を重ねました。
日本の文化の基盤は、沢山の創造を生み出す叡智の宝庫です。
温故知新、長い歴史によって形成される文化の力をおろそかにしてはならないと思います。
新しいものをつくるための足かせにするような伝統文化ではいけませんが、深い根を持った芸術こそが、文化の垣根を超えて広く多くの人々の心に響くものです。

一つ一つが何ら価値のないようなものでも、集めようとする意志の強さで、大きな意味をつくることが可能です。

無から有をつくるのです。

自然もすべてそのように出来ています。この歌は、日本人の自然観を盛り込んでいると私は感じます。

もっと現代的に解釈するなら、根源的なもの自体のあり方は、原子や分子まで突き詰めて行くと、そのもの自体に違いがあるわけではないのです。

その組み合わせの状況を区別判断する私たちの認知能力が、現実をそのように判断するのです。

私たちの意識が、この現実をそう読みとります。

つまり、私たちの観念によってこの現実がつくられているともいえるかもしれない、私は常にそのように目の前の状況を見るようにしています。自分自身が、この状況をそのように招いた。。。

《内なる自然》2010
アクリルガッシュ・キャンバス
117x94cm

「内なる自然」は、自分自身の中にこそ、自然という力がある、そういう力を信じて描いて行く私自身の信条の告白として題名を付けました。

これまでになく厳しく、力強い画面になりました。

外は内の投影です。自分の中に何かが変化している時に、周りの状況もそれと呼応して変化します。

自分が危機に直面すれば、そのような危機を招きます。

まずは自分自身を平穏、不動の状況に置いておくことが大切です。

こういう異常な事態が起きた場合は、それが試されます。

周りの状況に飲み込まれない、自分自身を見失わない、常に自分のするべきこと、絵画を制作し続けます。
そのような心構えで、この事態を乗り越えようと思います。

この3点は、今から思うと、新しい自分をつくるために、自分を揺さぶり、壊し、自然と同調しながら創造し制作しようとする仕事になっているようです。

自然の力が、私の中でそれをそのように表現するよう働きかけている、そのように実感するのです。

最後に二つお知らせです。

1. 私の作品を展示中の東京国立近代美術館の現在の状況。

「3月11日(金)の地震の影響により、安全確保、作品及び施設の点検のため、
3月12日(土)、13日(日)は臨時休館とさせていただきます。」

ということです。

本日は、担当学芸員による作品解説が予定されていましたので、とても残念なことになりました。

2.アメリカのオークションサイト、イーベイeBayでプリント作品を出品する事にしました。

現在イーベイでは、日本支援プロジェクトを実施しています。
このプロジェクトに参加しています。
eBayに出品している私の作品が落札された場合、落札価格の10%がイーベイのプロジェクト経由で日本の被災者に支援として送られることになります。
世界の人々に、日本の画家から芸術を通して支援を呼びかける、微力ながら今の私に出来る精一杯の努力を試みてみました。

eBay Japan Earthquake and Tsunami Relief Fund

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