17、18日の在廊中に、発表中の作品の内容や制作について、いろいろ語って参りました。
自分自身の制作のためにも、このブログに記録として書き残しておくことにします。

今回の個展で出品中の「山は動く」という作品は、
「今までとかなり違うように見えます」というご感想を頂きました。

この作品は、突然出て来たわけではなく、実は伏線となる作品がいくつかあるのです。

1点目は、「空に花を探す」。

flowers in the sky@ichiu

 

空に花を探す
2013
hatching
acrylic gouache on canvas
72.7X91cm
¥380,000-

この作品は、昨年の個展「自然は鏡展」でも出品しましたが、
今回の新作の伏線となる重要な作品ですので、
現在(個展会期中)画廊エントランスでご覧頂けるようになっています。
在廊中にこのような会話がありました。

見る人:どこに花があるのですか?
私:どこかに必ず花はありますよ。
見る人:みつからないんですけど...。
私:では、どこにどんな花があったらいいですか?
見る人:そうですね....、ここなんかにあったらどうでしょう(指差す)?
私:つまり、あなたの中に見たい花があるってことなんです。
見る人:へーっ???

最初私は、花のような雲を見かけたことがあって、
それからよく、花雲はないかなと思って空を見るようになったのです。
でもそれ以来、最初に出会ったような花雲はみつけられなくなりました。
自分自身の中にすでに見たい花雲があるから、
もしかしたら別の姿の花雲があっても気付かなくなったのだと気付いたのです。

きっと絵を見る人も、自分の見たい花があるに違いない。
ならば、私がわざわざ花を描かなくても、
この作品の中で見る人が心の中に花を描ければ、
その方がずっと素晴らしい。
この時に、「絵には、描いてないものでもそれを思い描いてもらえる表現がある」ことに気付いたのです。
私にとっては、一大発見でした。

その次に「山越えて」という作品がありました。
この作品は、実は昨年のゴールデンウィークの頃に、
完成して画廊に送って、すぐに買い手が現われましたので、
未公開のようになってしまった作品です。

beyondmountains2@wp

 

山越えて
2014
scratch/hatching
acrylic gouache on canvas
53×72.7cm
個人所蔵

最初は、長野で出会った白雲として描き始めました。

途中で、キャンバスを逆さにして見ました。
すると、雪山の連なりに見えて来ました。
人生の山場にさしかかった時、
「このような絵が描きたい」
そう思ったそのままが出ていました。

「あぁ、やっとひとつの山を越えたのだわ」そう眺めました。

思えば、雲は常に山の遥か上空を超越しています。
「山などわざわざ登らずに、雲のように生きられたら...」

そこで「山越えて」と名づけました。

「雲には人の想像力をかき立てる力があるので、
雲が山を彷彿とさせることがある」ということに気づいたのです。

これらの作品を経て、「山は動く」が生まれました。

山は動く(簡易)

山は動く
2014
hatching
acrylic gouache on canvas
113x162cm

¥1,200,000-

昨年は、度重ねて自然災害に見舞われました。
局地的大雨による土砂崩れ、御嶽山の噴火、長野での大きな地震。
その度毎に、決して山は不動ではないことを実感しました。
しかし、振動し、変化して行く山を1枚の絵で表現することはとても難しいことです。

そのような表現を可能にするアイデアは、まったく頭の中に思いつくことはありませんでした。
ところが、制作をしながら、自然に絵の中にそれが現われた時は、私自身とても驚きました。
驚いただけでなく、その晩はなかなか寝付けない程興奮しました。

実は、噴火と地震の時に、私の身体自身が自然と同調するかのように具合が悪くなり、
突発性難聴と目眩を経験することになったのです。
その経験が、この作品を可能にしたとも言えるかも知れません。

雲を描いていたにもかかわらず、結果的に山が現われ、振動しているかのような表現となりました。

一つの作品を描くのにとても時間がかかりますが、
そのゆっくりとした時間の経過によって、
制作が思わぬ方向に展開して行きます。

ひとつの作品の完成が、また次の作品のはじまりをつくっていくのです。

kaneko2015

川田 祐子 展 ー 空は知っている ー
2015年1月10日(土) − 2月1日(日)
12:30〜19:00(土曜、日曜〜18:00) 月曜休廊

これまでの自己の内側へと重層性、深さを突き詰めて行く制作から、
今はより軽やかさ、純粋さ、自由へと向かっています。
このような変化は、制作への情熱が高まり、時が止まった瞬間、
何気なく仰ぐ空が、私にそっとささやいてくれることなのです。

KANEKO ART TOKYO
〒101-0032 東京都千代田区岩本町2-6-12 曙ビル1F
TEL : 03-6240-9774
info@kanekoart.jp