一昨日、次回展覧会のカタログに掲載予定の作家コメントを書き上げて送ってしまったので、
少し心の余裕が持てるようになりました。
400字という字数制限。伝えたい自分の思いが、その枠に治まり切らず、苦労しました。
メモした内容の10分の1も盛り込めなかったかもしれません。
しかし、この機会を頂いたために、あらためて自分が何を伝えたいのかについて真剣に考えることができました。

画家は作品にその思いを込めるものということもあって、
言葉にはうまく表現出来ないことがたくさんあります。
上手に人に伝える言葉を用意していない作家がほとんどです。
皆寡黙に制作に励むからです。
また、自分の作品でありながら、実は自分が気付いていないことを、作品を観る人から教えられることもあるのです。

美術史の研究者が見る内容と、文学者のそれでは全く視点が違います。
また美術史の研究分野でも、「再考」とか「見直し」ということがいくらでも唱えられて行きます。
従って時代によっても、汲み上げられる内容が変化して行きます。
絵画は多面的であって、さまざまな気づきを与え続けています。
万人の問いに、万の答を用意していると思った方がいいのではないかと私は感じています。

制作する側として私が大切にしていることは、なるべく答がたくさんある作品にすることです。
一つの答しか用意されていない作品は、長い時間人を立ち止まらせておくことができません。
たとえ誤解や無理解を招いてしまう可能性があったとしても、あえてベールに包もうと思う事さえあります。

自然の事象が、そのお手本である事は言うまでもありません。
真実と言われる事でさえ、実は裏表があり、矛盾に満ちているからです。

絵画を自分の人生にどう役立てるか?
そういう視点で楽しむことができたら、
あなたも絵画の魅力を存分に味わう事が約束されたも同然です。
それはどのようなジャンルの絵画であっても、名作であろうが、無名の作家のものであろうが関係ありません。

たとえば、私の個展を見に来た人でこういう人がいるのです。
その人は株の投資家なのですが、絵画から株の予想が出来ると信じていました。
それはその人の思い込みではなくて、実際に株の動向をフラクタルとして捉える研究があり、人間のつくる有機的でフラクタルなアートとして私の作品から何かを読み取ろうとしていたのです。

そうは言っても、美術館で何をどう見たらいいのか、わからないという人も確かにいます。
でもそういう人も、きっと何度か美術案やギャラリーに足を運ぶ内に、何かを掴み始めます。
ダメな例は、途中で諦めたり、何か余程のことがあって美術が嫌いになってしまった場合です。
それでも大丈夫。
次に紹介する動画を見れば、きっと誰でも美術館に行きたくなって来るはずです。

ここで紹介するトレイシー・シュヴァリエさんは、学芸員でも画家でもありません。
あの日本にも上陸した「フェルメール熱」の火付け役であり、映画化された小説『真珠の耳飾りの少女』の作者です。
彼女が、どのようにしてその小説を書くに至ったか、そのエピソードと共に、
彼女がどのように絵画を楽しんでいるかが紹介されています。
夏休みのお暇な時間に楽しんで頂けたら幸いです。

そして是非、アートを見に出かけてみましょう。
もちろん、映画『真珠の耳飾りの少女』を楽しむ事も一つの方法です。
そして、名作はもちろんいいけど、自分と同じ時代に生きて活動している作家の作品も是非応援して下さい(笑顔)。

映画に登場するフェルメールは、実際にはあまり記録に残っていない画家の一人です。
短命で、かつ残された作品数がとても少ないこともあり、とても長い間人々の記憶から消されていました。
彼が,例えばコローのように恵まれた環境で制作出来たら、もっと大きな大作と相当数の名作が残されたに違いありません。
しかし画家は1点でも名作が残すことが出来れば、幸せなのです。
フェルメールはもうすでに報われています。
次はあなたが、無名の画家を救い、名画を見出す番です。

動画の中で、トレイシー・シュヴァリエさんが最後に紹介する画家の作品も、長い間美術館の保管庫の中に埋もれていた作品です。
その作品が、彼女の力で救われ、みるみるうちに名作に変化して行く瞬間をあなたは目の当たりにすることでしょう。

私はいつも自分の作品を紹介する時に、次の言葉を必ず添えます。
「作品を完成させるのは作家ではなく、作品を観るあなたなのです。」

トレイシー・シュヴァリエさんのレクチャー

*PCからは、日本語訳のテロップをご覧になれます。

『真珠の耳飾りの少女』映画予告編

『真珠の耳飾りの少女』映画
YOU TUBEのレンタル有料視聴サービスのリンクを貼っておきます。
この映画の最後にやっと本当の『真珠の耳飾りの少女』の作品が出て来ます。
その時に心の底から、「絵画は素晴らしい!」というため息が出ます。
「もしかしたら実際の人物よりも素晴らしいのではないか」とさえ思ってしまう程です。

追伸
これまでに頂いたご支援と制作による収入の全ては、すでに毎月の家賃費(月々63300円)、制作生活費(月約3万円)、借金返済(毎月5万円)に活用させて頂いております。今月も引き続き経済的厳しさの中で制作しています。どうかご理解、ご支援の程、よろしくお願い致します。